介護現場の現状をひた隠す「ブラック化する介護」

TVドラマへの抗議文送付からみる日本介護福祉士会

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遙矢当(@Hayato_barrier)

 「介護現場の労働の改善」-これは2000年に介護保険制度が創設されて以来の懸案です。これは、介護保険制度が存続する唯一の道であるとも言えます。この問題を解決する必要があるという認識は、現場で働く介護職員自身が強く自覚しているはずです。
 とは言うものの、単に「介護現場の労働の改善」とは言ってみても、労働環境や、待遇、社会的地位などを含め、問題のすそ野が広い現状があります。問題解決に向け取り組もうにも、「どこから手を付けて良いか分からない」というのが、正直なところかもしれません。介護業界に限らず、労働問題を解決するには、普段から働く仲間と積極的に話し合うことが必要ですし、労使間の交渉を定期的に持つことに尽きます。そして、職域団体を通じ、社会に向け率直なアピール活動を継続していくことのはずです。
 そんな中で、最近の「介護現場の改善」に関連して、気になる事件がありました。
 今年1月からフジテレビ系列で放映されたドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の中で出てくる介護職の女性「杉原音」(有村架純)の人物設定が、あまりに過酷で劣悪であるため、日本介護福祉士会が内田千恵子副会長の記名を添えて抗議の書面を送った、という一件です。
 これは、ドラマを観た視聴者から、日本介護福祉士会に問い合わせが殺到し、特に介護職を目指す学生からは「こんな実情があるのなら、介護職になるのを止めようかと思う」という意見を受けたことが経緯としてあります。
 この団体は、介護福祉の現場で働く人々を代表する職域団体です。なぜ彼らは抗議文を送付したのでしょうか。ドラマの描写の巧拙はあれども、彼らは介護の現場には世間で喧伝されるような窮状が全くないと、自ら否定できる立場であるのでしょうか。
 むしろ、なかなかスポットが当たらない介護現場の、さまざまな課題を持つ現状が、少しでも注目される好機になったはずでした。
 視聴者にとって、ドラマの楽しみ方は、ストーリーの中身よりも、華麗なタレントの洗練された立ち居振る舞いを見て楽しむ、ファンタジーであるはずです。なので、今回も介護について描く場面があったとしても、大幅にかい離しないのであれば、鷹揚に捉える度量こそが、職域団体として求められるはずです。

消極的な態度を取る日本介護福祉会

 そんな好機に、日本介護福祉士会は、こうしたドラマに対し目くじらを立て抗議をする態度だけを示しました。介護現場の実情をオープンにせず、また介護に対する社会的な理解を求めようとしない日々の態度を含め、あまりにも消極的な態度と言えましょう。
 日本介護福祉士会は、自らの首を絞めているようにしか思えません。介護現場の困窮は事実です。「現場の課題に取り組んでいる」と彼らが強弁するのなら、テレビ局とタイアップしながら、ドラマを作成するくらいのアピールと行動力こそが求められているはずです。
 近年の日本介護福祉士会が示す消極的な態度には、他にも疑問符が付くものもあります。
 直近で言えば、石橋真二会長が政府間交渉(EPA)で進んできた外国人介護士の介護現場での受け入れについて消極的な態度を示すなど、人手中心で機械に代替が利く領域の少ない介護業界において、人材確保の多様性を閉ざしかねない状況を生み出そうとしています。
 ある意味で、消極的・排他的な態度を強めるこの団体は、排他的な政治を基調とする安倍政権との親和性を高めているかのようです。政策によって窮状を深めている介護現場を代表して、職域団体として政策提言をほとんど出さず、沈黙したままなら、安倍政治を追認し支持を表明していると言われてもやむをえないでしょう。
 介護現場が現状の改善に取り組むに当たり、絶対的に欠くものは「アピール力」と「結束力」の二つです。同じく社会保障制度を支える事業である保育事業や、障がい者福祉の事業も、常に人手不足で悩んでいます。そんな中で、介護現場は特にアピールを欠くといえるでしょう。
 介護現場や介護に関わる高齢者とその家族は、最近話題になった「保育園落ちた」のブログを書いた父兄のような勢いを欠きます。日々の介護での消耗もわかりますが、そこで諦めたのでは、劣悪な介護現場の状況は変わりません。
 結局のところ、介護保険制度創設から16年経った介護現場の現状を見ると、半ば諦めかけているように感じます。もう職域団体に期待は持てそうにありません。
 いま、少しずつでも現場を改善するには、介護現場で普段から仲間と積極的に話し合うことだし、社会に対する率直なアピール活動を行い、もっと多くの人々を巻き込む必要があります。
 そして、これを書く私自身も、今後の取り組みが改めて問われています。

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