米国中心のグローバル同盟が 世界を席巻 編集部 脇浜義明

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米国資本と中国資本の対立の時代に

 中国資本と米国資本の対立が国家間の貿易戦争となっている。中国の一帯一路、東シナ海基地建設、アフリカ進出などの拡大政策と、これまで覇権国としての特権にあぐらをかいてきた米国との衝突を観ていると、かつての帝国主義間戦争の前夜かと思わせられる。中国が帝国主義かどうかは議論の余地があろうが、ネオリベラリズムのグローバル化は、米軍やNATOの軍事力に支えられており、帝国主義であることは間違いない。


 インド出身の歴史家・評論家のヴィジャイ・プラシャドが書いた「現在の廃墟の中で」という論文から、21世紀帝国主義に関する部分を抜粋、紹介する。

 現在あるのは、帝国主義間対立ではなく資本家間対立である。トランプが「アメリカ第一主義」を打ち出したため、巨大で安価な労働市場に依存して発展してきた政治・経済体制の間に緊張関係が発生。その資本家間対立が国家間危機となっている。


 かつて中国が融資という形で西側の金融危機(2008年、リーマンショック)を救って以来、西側には「中国の支配」という妄想的恐怖感が徘徊している。その恐怖感が政策化し、世界システムを混乱させている。 
 17年のダボス会議で習近平首相は、「貿易戦争による勝者はいない」と言った。彼が言いたかったのは、貿易戦争だけでなく、大混乱を招く国家間対立も含まれている。資本家間対立が国家間対立―やがては帝国主義間対立―に拡大すると、物騒な事態となる。


 帝国主義は世界の構造を複雑化し続けている。むき出しの植民地主義や20世紀中葉の新植民地主義は過去のものとなり、もっと複雑な形になっている。以下に21世紀帝国主義の特徴と目的を6つにまとめて提示する。


(1)米国をハブとして広がる同盟国(英国、フランス、ドイツ、日本など)のグループ。その外側には、さらに従属的同盟国、例えばコロンビア、インド、イスラエル、サウジアラビアなどが配置されている。これら追従諸国との同盟関係は、米国の世界的影響力維持にとって重要である。これら同盟国に敵対したり反対する勢力が生じると、米軍やNATO軍は直接介入するか、従属同盟国に兵器を送り、軍隊を指導・訓練する。


(2)この同盟システムに敵対する勢力は、一切許されない。ソ連邦崩壊による冷戦終了で、大きな脅威はなくなったが、BRICSやロシア、中国、アラブやラテンアメリカの反乱などがあり、抵抗がなくなったわけではない。
 米国と同盟国は、自らの支配体制維持に腐心している。米軍基地をグローバルに配置し、NATOの東方膨張、米軍艦の環太平洋地域展開で、ロシアと中国を封じ込め、圧力をかけてきた。


 ラテンアメリカの対抗的勢力が選挙で政権を獲得すると、昔ながらのクーデター(例えばホンジュラス)やポスト・モダン的クーデター(ブラジルなど)を仕掛けて潰した。BRICSやALBAなどに対しても全力で解体しようとしている。現在、イランやシリアの政権転覆のために圧力をかけているのもそうだ。


(3)同盟の中心である米国の威信高揚・維持。第一次湾岸戦争(1991年)のとき、ブッシュ大統領(父)は、「ベトナム症候群を克服した」と言った。米国は世界舞台で活動する自信を取り戻し、軍事力を恐れることなく全面展開できるようになった、と言うのだ。1980年代の代理戦争は不必要で、直接、米軍が敵を攻撃できる。


 2003年のイラク戦争後には、「再びアメリカの世紀」という声が鳴り響いた。ただし、イラク侵攻については同盟国内部で意見の不一致があったため、これを潰さなければならなかった。


 米国は、オルブライト国務長官の言葉を借りれば「なくてはならない強力な国家」であり、そういう米国像を内外に再確立しなければならない。イランや北朝鮮への恫喝は、この大言壮語を見える形にしたものだ。


軍事・生産・金融・資源の
独占に中国が異議


(4)グローバルな生産体制と商品連鎖を守ること。これは、現代資本主義の基礎で、その利益は、多国籍企業が吸い上げる。生産工場を世界各地に分散し、厳格な知的財産権制度のおかげで、多国籍企業は工場がある国の政府や労働者組織よりも大きい支配力を保持している。 


 万が一、生産基地がある国で国有化や知的財産を侵すような試みがあると、グローバルな同盟システムが外交攻勢や軍事的威嚇で徹底的に潰す。苛酷な労働条件は社会関係を悪化させる。にもかかわらず、工場で労働者が高い倫理性を発揮して真面目に働くのは、労働管理までも下請けに完全委託しているからである。このメカニズムのおかげでグローバル企業は社会関係を破壊するような苛酷な労働条件を押しつけて暴利を貪っているにもかかわらず、善人面をしていられる。


(5)地下天然資源を、安価に掘り出し、安全に運び出す仕組みの維持。本来その恩恵を受けるべき地元住民に支払われる金額は極少である。こうした資源の略奪は、環境を破壊し、苛酷で有害な採掘作業は、人目が届かない森の中や砂漠で行われる。これに異議を唱える住民は、「テロとの戦争」とか「麻薬戦争」といった、もっともらしい名称をつけた弾圧の対象となり、環境破壊と資源強奪が維持されている。


 グローバル企業の従属的パートナーやBRICSの新興発展国は、原材料の輸出に依存して経済発展をはかろうとしている。このため、ハブの中心の企業は、直接採掘を管理する必要もなく、環境破壊や労働者酷使の責任から逃れ、手を汚さないですんでいるのだ。


(6)グローバル金融資本が、ローンの元利を取り立てて、資本を蓄積するシステムの維持。例えばサウジアラビア王家を保護し、オイルマネーが北の銀行資本に流れ込むルートを確保し、貧困国への融資も容赦なく取り立てる。


 西洋世界が金融危機に襲われたとき、アジアの大国(中国、インド、インドネシア)に融資を頼み込んだ。その返礼として、G7という特権的機関を廃止して、代わりにG20を設立して仲間に入れると約束した。しかし、北の銀行が危機を脱して回復すると、その約束は忘れられた。大切なのは財力の回復だけであったのだ。

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