イラン民衆の健康被害もたらす 医療器具・薬品の全面禁輸 翻訳:脇浜義明

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米国の非人道的なイラン制裁

 国連は大国による経済制裁―とりわけ薬品や食糧の経済制裁は非人道的だから控えるように呼び掛けているが、口先だけである。経済制裁のなかでも卑劣なのは、医療薬の禁輸措置だ。米国のみならず他国からのイランへの医療品まで輸出制限措置を強化しており、イランの国民皆医療保険制度は危機に瀕している。  (編集部)


危機に瀕する国民皆医療保険制度
深刻な死亡率・疾病率の悪化

 医薬品の禁輸がイラン民衆の健康を蝕んでいる。
 10月、人権監視団は「最大の圧力、米の経済制裁がイラン民衆の健康への権利を侵害」という報告を出した。1年前の11月、米国はイランへの「二次制裁」として米国以外の個人、企業、金融機関を対象とする輸出制限措置を発した。このため「イランは大切な医薬品を含むあらゆるものが購入できなくなった。イラン人の健康維持や薬へのアクセスが妨害され、てんかん患者の薬から、がん患者の化学療法薬にいたるあらゆる治療薬が不足している」と人権監視団は非難した。
 

イラン民衆の健康被害を報告したのは、人権監視団が最初ではない。すでにオバマ政権時代にも米の制裁による民衆の健康被害があった。
 

2013年ウィルソン・センターの報告は「米国の制裁によって、イランへの薬品と医療器具の供給が滞っている。特に最先端医薬品やその化学原料の入手ができないのが大きな混乱を招いている」と書いた。医学誌『ランセット』も、米の一方的制裁がイラン民衆の健康に悪影響を及ぼしていることを何回も記事にしている。
 

この8月号「ランセット」には、米国とイランの4人の医師が、制裁によってイランの国民皆医療保険制度が危機に瀕していること、人々の死亡率と疾病率が悪化していることなどを報告している。1年前、イラン医学協会長のセイエド・アリレザ・マランティ博士は、臓器移植が必要な患者やがん患者が「やむなく見放されている」状態を訴える手紙を何度も出したが、公式な返事は一度もなかった。
 

国連特別報告者が「イランは人道上緊急に必要な物資を購入できない。このため、世界のメディアが知らない間に、薬品不足で入院患者が次々死んでいく恐ろしい事態が発生している」と報告したにもかかわらず。
 


人権団体への送金すら
拒否する銀行

米国は、特別指定国際テロリスト措置、特別指定国籍及び禁止人物リスト、金融犯罪取締りなどあらゆる方便を使って、イラクを締め付けている。イランの人権団体への送金すら銀行が拒否している。米国の二次制裁で、第三者もイラン内に送金できないのだ。
 

2019年8月、イラン内にあるアフガニスタン難民キャンプの世話をしているノルウェー難民評議会のヤン・エグランド会長は「ドナーの献金を取り扱ってくれる銀行がない」と嘆いた。
 

人権監視団の「最大の圧力」という言葉は、米国から発せられた言葉である。トランプとボルトンがイランとの核協定(共同包括行動計画)から一方的に脱退して制裁を再開したとき、スティーブン・ムニューシン財務長官が「これから最大の圧力が始まる」と言ったのは、要するにイランへの集団懲罰のことを言っているのである。
 

国民皆医療保険は、イラン政府の基本的政策志向である。これが制裁のために、例えば表皮水疱用の包帯とか炎症用薬品(イラン・イラク戦争で欧米がイラクに供給した化学兵器の後遺症治療薬)などの基本的医薬品の輸入に困っているのだ。
 

20世紀、イランは国産薬品や医療器具の開発に力を入れた。それで少しは間に合っている面もあるが、材料の一部を輸入に頼らざるをえないので、困難である。
 

数日前ベネズエラのガブリエル・ヒメネス科学・技術相が、透析装置100台を買いにテヘランを訪れた。米の無法な圧力を受けている二国が助け合っているのだ。ベネズエラはイラン以上に米の制裁の打撃が大きく、基本的医薬品の85%が不足している。イランがわずかながらベネズエラに医療器具を供給できたのは、イランの不屈の精神の表れであろう。

* * *
訳者から:なお、一方的な米国の制裁圧力が高まる中、イラン政府も核合意「共同包括行動計画」から抜ける気配を示し始めていることも、気になる徴候である。
出典:ヴィジャイ・プラシャド(トリニティ・カレッジ南アジア史教授)、「グローブトロッター」、独立メディア研究所発行、11月8日

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