【メンズリブ(2)】被害者と加害者、双方を解放するために 伊田 広行さん(NPO法人SEAN理事。ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン運営スタッフ)インタビュー

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実践に学ぶ 社会運動に非暴力は可能か

 「財界や自民党だけが悪いわけではない。弱者の側だと言いつつ、本当は強者の側にいるのではないか」。時には既存の社会運動に対して厳しい目を向ける伊田広行さん。雇用の形にとらわれず加入できる労働組合「ユニオンぼちぼち」の運営や、脱暴力に向けた支援に携わる。そんな伊田さんに、参加する運動にハラスメントが起こった時の解決の道筋や、批判や攻撃の応酬はどうすれば止められるのかなどについてお話をうかがった。 (聞き手 フリーライター・谷町邦子)

伊田広行さん

DV加害者プログラム・NOVOの運営、男性・労働相談、個人で加入できる労働組合「ユニオンぼちぼち」の執行委員。立命館大学、愛知淑徳大学、大阪経済大学で非常勤講師として教鞭を取る。

個人を社会の基本とする 「シングル単位」の考え方を提起

 学生時代、マルクス経済学や組合論、社会政策論、フェミニズムを学んだ伊田さん。雇用形態にかかわらず同一賃金を保障、しっかり税金を払い、助け合う北欧型社会民主主義を理想とするようになった。90年前後には性別、未婚・既婚に関係なく個人を社会の基本とする「シングル単位」で、男性の長時間労働、女性の低賃金などは解決する、という考えに至ったという。  

その頃、個人加盟のユニオンの運動に関わり、女性たちと非正規労働運動に参加。既存の労働組合の役員は高所得であり、正規雇用と非正規雇用の所得格差解消には消極的だった。「非正規労働運動は男性の既成の権利との闘いだった」と伊田さんは振り返る。  

また、労働組合のあり方は、伊田さんが提唱する概念「主流秩序論」の観点からも問題があるという。「主流秩序」―経済的な安定や、結婚して子どもがいる標準家庭だということなど、社会一般で良いとされていることを価値が高いものとし、当てはまるかそうでないかでの序列化―の構造に組み込まれているという。 

また、「女性の権利と言いつつも、女性社長や女性政治家になれるのは主流秩序の中の勝ち組女性で、貧しい人やマイノリティには勝ち組のフェミニズムは届かない」と権力構造の中のフェミニストも批判する。  

「自民党と同じように物質主義的な価値観で、社会の上を目指していたのではないか、まず自分の立場を見直す」。  

2005年、伊田さんはあえて助教授の職を辞して、非正規職の教員になった。  

現在、伊田さんは「ユニオンぼちぼち」の執行委員を務めている。意見が言いやすい雰囲気を大事にする「ユニオンぼちぼち」だが、過去にはパワハラの告発もあったという。トラブルを丁寧に聞きとると、一方的な加害者はなく、加害と被害が絡まりあい、双方が被害者意識を持っていることが多かった。  

弱者に寄り添う運動では、「自分はうつ病だ」「傷ついた」といった「弱者の言い分」は、受け入れざるを得ない強い言葉であり、「強いものが弱いものを支配する」と言われることも多い。しかし、実際には部下が上司に嫌がらせをすることもあり、権力構造と個々の人間関係は異なる。トラブルが起こった時は、時間をかけ、被害者の立場に立ちつつ両者の話を聞いて調整するほかないという。  

男性相談やDV加害者プログラムにも携わる伊田さんは、加害者にも支援が欠かせないと主張する。加害者は、自分の言い分を受けとめられた上で、被害者の立場の苦しさをわかって自分を総括し、外に暴力を向けないように変わる手助けを必要としているそうだ。  

また、被害者と加害者、双方を暴力から解放するためには「課題の分離」という考え方が必要だという。「課題の分離」は、自分の問題と他人の問題を分けて考えること。「課題の分離」ができないと、DVなどの被害を受けた場合、強い怒りで相手に復讐することにこだわり、問題解決になかなかつながらないこともあるという。  

一方、加害者更生の場面では、「彼女が叩いたり物を投げたりしたのはよくないが、相手がどうあれあなたが怒鳴ったり、壁を殴ったりしてはいけない。それは100%あなたの問題」と、暴力の抑制に用いられる。また、「課題の分離」は、日常で起こりうる、見えにくい暴力も指摘できる。例えば説教で相手の課題に口を出すことは、相手への支配で、エスカレートするとDVにつながる可能性もある。  

「運動に関わる人は、誰もが非暴力を学んでほしい」と伊田さんは語った。

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