【論説委員会】ベネズエラ情勢をめぐって 山口 協(地域・アソシエーション研究所)

Pocket

内政不干渉にとどまらず 民衆の側からの連帯的介入を

5月の論説員会では、混乱の続く南米ベネズエラ情勢をめぐって論議を行った。ベネズエラでは、ここ数年にわたってマドゥロ政権と反政府勢力との対立が続く一方、経済危機による物資不足の下で庶民の暮らしは甚大な打撃を被っている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などによれば、ベネズエラから脱出した難民・移住者は400万人にのぼるという。

内政干渉 反対の論理

 こうした政治的対立や経済危機をどう見るか。一つの見方は、「米国対ベネズエラ」という枠組みから米国による内政干渉に反対するものである。おおむね次のように特徴づけられるだろう。(1)問題の根本的な要因は、ラテンアメリカにおける資源や利権を狙う米国にある。(2)米国は、チャベス政権時代から反米・社会主義を掲げるベネズエラの政権転覆をもくろみ、野党勢力を支援してきた。(3)こうした内政干渉、主権侵害こそが、ベネズエラ国内の政治的対立を助長してきた。(4)経済危機の主要な原因も、米国が主導する経済封鎖措置や既得権層の妨害活動のためである。(5)内政干渉が後押しする政府批判や反政府暴力の激化によって、マドゥロ政権は強権的な対応へと追い込まれた。(6)米国やその同調者による「民主化」や「人道支援」の強調は、政権転覆という真の目的を覆い隠すための偽装に過ぎない。  

たしかにキューバのカストロ政権しかり、チリのアジェンデ政権しかり、中南米を自国の「裏庭」と見なす米国が、まつろわぬ政権に対して陰に陽に介入を加えてきたのは事実である。しかし、すべてをそこに還元できるのか。  

この点で、次のように国内要因を重視する見方がある。(1)現在の政治的対立の直接的な契機は、2015年の総選挙で反マドゥロ政権の野党連合が議席の3分の2を獲得したことにある。(2)これ以降、マドゥロ政権はチャベス派の影響が強い最高裁判所を使って国会の機能を制限したり、憲法制定議会の設置を通じて国会の無力化を図ろうとした。(3)2018年の大統領選挙でも、野党の主要政治家が立候補資格を剥奪され、主要野党のボイコットにつながった。(4)経済危機の主要な原因は、チャベス時代からの原油依存や経済活動に対する国家介入にある。(5)マドゥロ政権は一貫して「ベネズエラに人道的危機は存在しない」と表明し、国際的な支援を拒絶している。  

民衆の自己決定に向けて

以上2つの立場については、一方が全面的に正しいとは言い難い。それゆえ、本紙でも第1675号と第1678号で両者の見方を紹介している。  

軍事介入を公言する米国の策動が許されないのはもちろんだが、内政干渉や主権侵害への反対は、一方では権威主義的な諸政権による民衆抑圧を免罪することにもなりかねない。マドゥロ政権について言えば、とりわけ「人道的危機」の一貫した否定は、むしろ米国の流布する「独裁対民主」との構図を容易に浸透させる役割を果たしている。  

こうした中で考えるべきは、外部からの介入一般を否定することではなく、たとえば「国境なき医師団」のような、民衆の側からの連帯的介入の可能性ではなかろうか。  

ベネズエラのことはベネズエラの民衆が決めるべきとはいえ、人々が脱出を余儀なくされたり、飢餓に苦しんだりするような状況では不可能なのだから。

Pocket

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。