【記者の目】パスを出してますか?しっかり受け取ってますか?

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 前号(1686号)の、元ラグビー選手の平尾剛さんへのインタビュー時に話してくださったことで、東京オリンピックに反対する意見を表明したものの、スポーツ界や、自分の身の回りの教育関係者からほとんど反応がなかったということが、すごく気にかかっている。実は、SNSなどネット上では、多数の反響があったそうだ。  

世の中に対する自分の意見は、職場や身近な人間関係の中で言いづらく、言ってもきちんと答えてもらえないことは、私たちにだって起こりうることだ。「新元号はめでたい」「オリンピック成功するといいな」ということが「暗黙の了解」となっている。そういった話題にのれない場合は、押し黙るか話題を変えてやりすごす。一方で、SNS上では意見が近いもの同士が同意しあったり、反発する者同士で激しく議論が紛糾したりすることが、そこここに見られる。  

確かに「暗黙の了解」には、人間関係の摩擦を少なくするという効用がある。例えば、私は「痴漢やセクハラは人権侵害だ」という前提がない人と話すのは大変苦労する。痴漢の場合、公共交通機関に乗って移動するだけなのに、いきなり激しい不快感と恐怖心を与えられる。それも、自然災害ではなく、悪意を持った人間から。それをイチから説明しないといけないと、ぐったりするほどの労力が必要で、疲弊させられる。  

平尾さんは、純粋に競技を楽しみたい、自分が関わった競技に誇りや愛着を持っているという明確な立ち位置で、オリンピック反対論を丁寧に展開している。他人事として無責任に論じているわけではない。人民新聞に掲載されたものを含め「元スポーツ選手として、何、矛盾したことを言ってるんだ」という記事は、私が見た限りではない。  

思いつきによる乱暴な投げかけや屁理屈ではない、相手が考え抜いて発した意見に対して、自分の意見とちがっても聞く耳を持てば、双方が新しい視点を得られる充実したコミュニケーションになるのではないか。私は取材を通してそう考えた。話に出てきたラグビーのパスのように、相手を理解し、相手の呼びかけに耳を傾けることと、自分から発することは、きっとバラバラではなく一体なのだ。     (フリーライター 谷町邦子)

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