【時評短評 私の直言】水産物禁輸は「風評被害」ではない 高校非常勤講師 大今 歩

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  WTO 韓国の禁輸措置を是認

   2018年2月22日、WTO(世界貿易機関)の紛争処理小委員会(パネル)は福島第一原発事故を理由に韓国が福島県など東北や関東地方の8県産の水産物の輸入を禁止していることについて、禁輸は「不当な差別」と認め、「必要以上に貿易制限的」とし、日本の主張通りブリやサンマなど28魚種の解除を促した(「毎日」2018・2・13)。韓国が上訴したところ、4月11日WTOの上級委員会は「パネルは製品サンプル中の(放射性物質の)実測値のみで安全性を調査しており、潜在的な汚染の可能性を説明できていない」(「毎日」)とし、韓国の禁輸措置を是認。     

 5カ国が食品の輸入規制

現在、韓国だけでなく、米国・ロシア・中国・EUなど54カ国が福島県などの食品の輸入規制を実施している。これに対し、政府は福島県産の水産物で国の基準値を超えた例は1つのみで韓国の禁輸には「科学的根拠がない」として、撤廃を求めてきた。

 高すぎる放射能基準値

しかし福島原発事故前、魚類の放射線基準値は1キログラムあたり、0・091ベクレルだったのに、2012年厚生省が定めた基準値は100ベクレルで事故前の約1100倍にあたる(脱被ばく実現ネット)。確かに基準値を上回る魚介類はほとんど水揚げされていないかもしれないが、その基準値自体が事故前に比べ異常に高い。1キログラムあたり100ベクレルの基準値で健康を守れるのかが問われるからこそ、世界の54カ国が輸入規制をしている。  

日本は被害者か?

ところが、マスコミは「復興水さす大誤算」「安全性訴え、世界に届かず」(「京都」)「被災地復興に冷水」(「毎日」)などと、日本は水産物の安全性を確保してきたのに世界に受け入れられないと「被害者意識」を押し出す。さらにWTOの上級委員会は、「常任の委員7人のうち4人が欠員」で「機能不全寸前」(「読売」)と非難して決定そのものを疑う。しかし「機能不全寸前」ならば、なぜ昨年の「韓国の禁輸は差別的」としたWTOの決定は批判しなかったのか?そもそもなぜ「機能不全寸前」のWTOに提訴したのか?    

  「科学的に安全」との記載はない

菅官房長官は「日本産食品は科学的に安全で、韓国の安全基準を十分クリアするとの一審の事実認定は維持されている」(「毎日」)と述べるが、そもそも一審(WTOパネル)には「日本産の食品は科学的に安全」との記載がない(4月23日「朝日新聞・デジタル」)ことが明らかになっており、政府の説明は事実に反する。  

 「和食」は安全か?

河野外相は「韓国から日本に750万人の方が来られて日本で和食を楽しんでいる状況の中で、意味のない輸入規制」(「毎日」)とWTOの決定に反論。このように安倍政権は韓国政府を批判し、反韓意識を煽ることで、放射能汚染の現実から国民の眼をそらさせようとしているが、WTOの決定は「和食」の安全性を疑わない日本人に対する警鐘と受け止めるべきである。   

 無謀な放射能汚染水の海洋放出

一方、政府(原子力規制委員会)は福島第一原発敷地内のタンクにたまり続ける放射性トリチウムを含む汚染水の海洋放出を急いでいる。しかし、海洋放出は水産物の放射能汚染を著しくし、国民の健康を蝕む状況を深刻化させる。韓国などの水産物禁輸措置は決して「風評被害」ではない。私たちは安倍政権の「安全宣言」を疑い、諸外国の輸入規制に習って食品の安全に気を付け、放射能汚染からわが身を守らねばならない。

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