【文化欄】連載:反戦をアートで表現する人々(1)(聞き手・編集部村上)喜洛屋さん(アーティスト)インタビュー

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意見が違う相手も同じ人間かわいい絵で反戦を伝える

表現を突き詰めた先に反戦が

 1980年京都生まれ。2011年からイラストレーターとして活動を開始。科学一般労働組合の「安全衛生いろはかるた」、関西電力前抗議集会のプラカード作成や「ピースカード関西」に参加するなど、メッセージ性のある作品も描く。作品数は500点を超える。フリマアプリ「minne」で販売中。

―パステル画との出会いと、制作のこだわりを教えてください  アーティストとして活動を始めたのは2011年、パステル画は2007年からです。  

楽しいので動物ばかり描いています。お菓子、ぬいぐるみなど身近なものなどから構想を得て、デフォルメしています。リクエストに応じて描くときに、マニアックな生き物をわかってあげると喜ばれます。「ヨシキリザメが好きです」って人がいて「あのサメ、鼻先がシュッと長くてスマートよね」って言ったら、ものすごく嬉しそうにしてくれました。昔から動物が大好きで図鑑を見ていたので、だいたいの動物はわかります。こだわりは、キャラクターの目の中にちょっと光を入れてあげること。そうすると可愛い表情になる。「目を見たら喜洛屋さんの作品だとわかる」と言われます。単純に見える色でも、何色も重ねて深みを持たせています。

—かわいいタッチが特徴的ですね  みんなが楽しめる絵がいいなと思う。かわいいやつは誰も傷つけませんから。人に見てもらって、楽しいとか、かわいいとか、感想をもらうと嬉しいです。

—反戦などメッセージ性の強い作品を作る時、どんな姿勢で取り組まれていますか?  反戦アーティストのつもりはないですが、表現を突き詰めた先に、戦わない世界があります。

 「ピースカード関西」という、平和をテーマにした展覧会があり、毎回70名ほどの作家が参加しています。僕も毎年9月の「ピースカード展」には出展しています。  

2018年の4回目の参加では、「黄金の海をゆく」というイルカの絵と「ニホンカワウソ~同じ時を生きたかもしれない君へ」の2作を出しました。イルカの絵は、小麦がいっぱい実って波打つイメージで書いています。小麦が実るというのは、戦争によって荒らされることなく、みんなが豊かに暮らしていける状況の象徴です。

 ピースカードに出展する前から社会問題に興味があり、2007年からデモに参加しています。関西電力前で行われる原発抗議集会のプラカードの「振り返りわんこ」など、平和運動に関わる中で依頼されたプラカードを描いていました。  

デモや集会で、可愛いものを出してる人はまだまだ少ないじゃないですか。だから友達から「こんな可愛いプラカードは見たことがない」と驚かれます。それでも可愛いものを描くのは、僕の趣味でもあるけど、それ以上に誰かを攻撃するようなものは作りたくないんですよ。  

例えば反戦運動で誰かに自分の意見を伝えたいとき、意見が違う相手も1人の人間なので、「あなたは違うでしょ」って排除してしまうと、その人との関係は切れてしまう。そもそも平和運動って「みんなが仲良くしたいよね」っていうところから始まっているので、分断を生むようなことはしたくない。だから、できるだけ可愛く傷つけないように描いています。  

みんな仲良くしたい平和運動 排除・攻撃しない表現で

「誰々が悪いんだ!」と言ってしまうと、周りの空気も刺々しくなるし、そんな作品なんて見たくないじゃないですか。もっと自然に声が届けられるように柔らかくしたほうがいい。それは自分がデモに出て、刺々しいなと感じた体験からです。  

だから、「癒される」とか「柔らかい」「温かくなる」と言ってもらえるような作品を描きます。アートは、言葉よりも見る人のイメージに感情に訴えられるという強みがある。言葉より生身に伝わる。本能的に理解できる何かがあると思っています。

—アートで反戦を表現したい人にメッセージはありますか?  原爆の図で有名な丸木美術館も十分アートですが、行くのが怖くなるようなところって、普段から平和について意見を持っている人以外は近づきづらい。だから「誰に対して訴えてるの?」と思う。行った人は平和について考えるから、そういう場所も必要だけど、「それを持って外に出るのが正しいか? 街を歩いてる人が欲しがるものは? どんな言葉なら聞こうと思うんだろう?」などということも考えて描けばいいと思います。  

僕にとっては、みんなが楽しめること、傷つけないことが大事です。

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