【イスラエルに暮らして】スリランカ内戦での民間人虐殺拡大・激化させたイスラエル政府 イスラエル在住 ガリコ美恵子

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イスラエル人権派弁護士らが内戦への軍事的関与を告発

 2016年、イスラエルの人権弁護士イタイ・マックとイスラエル人左派活動家8人が、政府を裁判に訴えた。目的は、2002年から2011年にかけての、イスラエルとスリランカの軍事・外交関係に関するすべての書類を、外務省および国防省に公開させることだ。

 スリランカでは多数派のシンハリース政府軍と少数派反政府のタミル軍との間で、残虐な内戦(1983年7月―2009年5月。死者は市民10万人、戦闘員5万人以上)が、26年間続いた。

 両者は、広大な地域で意図的に市民を対象にした不法な殺害を重ねた。イスラエル製武器は、異なった時期に両者に輸出された。よく似たことが、アンゴラやコロンビアでも行われた。イスラエル人左派活動家が匿名で、内戦最終段階である2002~11年の公文書公開を求めた。この期間イスラエルは、政府軍のみに武器輸出し、政府軍が勝利したためだ。裁判費用はイスラエル人左派のカンパで補った。

 国連の発表によると、「内戦最後期の5カ月間だけで、政府軍により4万~7万5千人の市民が殺害された」。戦争犯罪、人道的犯罪、人権侵害が指摘されている。政府は市民に言論・表現の自由を与えず、違法逮捕を行い、戦火を逃れた市民を避難場から別の避難場に移動させたうえ、集団虐殺を行った。また、多くの市民が行方不明になり、レイプ、リンチ、性的虐待などの残虐行為が行われた。

 しかも政府は、子どもを兵士に仕立て、軍の補助部隊として利用し、反政府軍戦闘員を処刑した。また、医療関係者や人道支援団体を攻撃したため、市民は飢え、人道支援が受けられなかった。

 これらのことが公になったのは、スリランカ政府の兵士たちが、現場のビデオや写真をネットでアップしていたからだ。兵士たちは、裸で手足を縛られたまま処刑された囚人たちの姿、強姦リンチにより死体となった女性を輪姦し続ける現場、性器の映像を撮影し、ネットで自慢げに発信した。死んだ女性が股を広げられたまま撮影されているのもある。

 スリランカ政府と政府高官は、内戦中および停戦後、使用したイスラエル製の武器を、SNSで何度も誇らしげに記述していた。

 イスラエル政府は、スリランカ政府軍に戦闘機および軍艦を指揮する無人偵察機も供給していた。さらに、イスラエル警察、空軍、海軍は、スリランカ政府軍に軍事訓練も提供していた。爆撃の標的は一般市民だった。

 クフィール機(イスラエル製爆撃戦闘機。イスラエル空軍、米国、コロンビア、スリランカで使用)が使用された有名な事件の一つは、2006年8月14日に発生した。クフィール機を使って女子孤児院を爆撃したのだ。60人の女児が殺害され、数十人が重傷を負った。スリランカ政府軍は、この女子孤児院がタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の訓練を行っていたためだとしている。

 攻撃前にイスラエル製ドローンが使用されたが、ドローンに映し出された標的は民間人ばかりだった。

軍需輸出に関する書類公開を拒否するイスラエル政府

 イスラエルの人権弁護士イタイ・マックとイスラエル人左派が2016年にイスラエル政府に公文書の公開を要求した裁判の当初、国防省と外務省は、現存する数千の書類を確認する人手や時間がないとして、要求を退けた。国防省に保管されている文書の公開は、国家の安全を脅かす可能性があるとの理由だ。よって、スリランカへの軍需輸出に関して、唯一公開されたのは、セキュリティ・ベストの販売に関する書類だけだった。
 マック弁護士はこう主張し、書類公開要求裁判を続けた。
 「イスラエル政府は、スリランカ政府とその治安部隊が犯した重大な犯罪、イスラエルがスリランカ市民に及ぼした影響を考慮すべきであり、国連によってすでに文書化されている事実を認めるべきだ。政府機関の時間不足・人手不足、イスラエルの対外関係や治安を理由に、国家間の関係、輸出詳細を公開しないことは、書類公開を要求するイスラエル国民に対する侮辱だ」。

イスラエル軍需産業とスリランカ政府密接な関係が明らかに

 2018年9月4日、包括的な判決が下された。裁判官は、国家機密である軍需輸出に関して行われた国家高官聴聞会の記録を、初めて一部公開するよう命じたのだ。

 裁判官いわく「裁判見直しのため、両当事者の同意を得て、行政裁判所に付与された権限により、政府高官のみによる聴聞会の記録を確認した。国防省政治軍事部と国防治安部長官による専門鑑定、およびモサドからの推薦状を得てのことだ。

 首相の指示で公開された書類は、トピック別に整理されていた。書類を読んで、イスラエル軍部がスリランカ政府軍に与えた大きな影響力や、イスラエルの軍需産業がスリランカの内戦に深く関与していたことを知った。スリランカ政府軍の内部高官と、イスラエル政府との細かい討議内容も、記録されている。部隊の設立方針から軍政策、武器輸出取引の詳細など、実に様々なデータである。 互いの国が訪問しあい、武器取引を行っていたこともわかった。一方、スリランカとは秘密保持協定がある。スリランカ側は奇怪な形で破ったが、イスラエル国民による書類公開裁判により、イスラエル政府も破ることになった。これは他国関係に今後、反映されるであろう」。

 裁判官は、国家安全保障と対外関係に傷がつく恐れがあるとして、国防省の書類は公開を却下したが、外務省が保持する書類に関しては、2005年11月から09年5月までの書類を公開する、とした。

 半年前エルサレムで、スリランカ内戦中のドキュメント映画が上映された。映画は、上記の残酷な映像が満載されて、目を覆いたくなるものだ。強制的に兵士にされ、残虐な行いに手を染めた少年のインタビューもある。スリランカ政府軍が市民を標的に爆撃していることを知っていながら、国連が介入しなかった事実も語られる。スリランカ政府軍が村から村へ移動しながら爆撃する現場に、イスラエル軍人が同行し、指揮していたことも、映画を観ればわかる。

 映画の名前は「No Fire Zone」。当時、兵士たちの間で、自分たちの仕業を撮影しネットにアップするのが流行していた。あるジャーナリストがこれらを拾い、編集したのだ。

 上映会を催したのはマック弁護士だ。彼は言った。「スリランカの内戦で亡くなった方々は、私たちがこの映画を観て何があったのかを知り、喜んでいると思います。私たちには自国が何を企み、行っているのかを知る権利があり、これを監視する義務があります」。

 イスラエルで出稼ぎ労働をするスリランカ人は、約7千人。私の隣人もスリランカの出稼ぎ労働者だ。彼女にもこの映画を観てもらった。心の痛みを抱えながら、彼女は何度も繰り返し観た。彼女は8年前、スリランカ政府代理店に4千ドルを支払い、イスラエルの就労ビザを取得した。

 今は就労ビザの取得はかなり難しいとのこと。ビザ更新が却下された彼女の友人は現在、留置所にいる。ビザ取得と武器輸出額は、関係があるようだ。

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