【韓国取材(4)】学内清掃労働者の組織化に取り組んだ学生運動 金 世炫さんインタビュー

地道な組織活動と大学本部占拠の直接行動で勝利 

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学生時代、学内清掃労働者の組織化に取り組んだ金さんは、現在、非正規労働者の組織化とともに、「非正規職保護法」など制度作りにも取り組む、35才の若手労組活動家だ。韓国では、IMF経済危機(1997年)の際、リストラが合法化され、その後、期間雇用などが拡大し、非正規労働が蔓延した。さらに2006年頃からは、間接雇用=外注化が進んだ。代表例が大型マーケットのレジ打ち労働者の外注化だという。「外注化の核心は、労使関係の解消です」と語る金さんは、約550万人とされる非正規労働者の待遇改善とともに、労働者の解放とは? というテーマにも取り組む。組合事務所でインタビューした。 (文責・編集部 山田)

 盧武鉉政権時代に、2年以上の雇用で正規化を義務化する「非正規職保護法」が成立しました。しかし、資本の側は、外注化を加速させ、レジ打ち労働者の正規化・直接雇用を求める争議も多発します。そんな時代に学生だった私は、「e―ランド」という大型スーパーチェーンの争議を経験します。直接雇用を求めて労働者が籠城し、警察が導入されるほどの激しい闘いでした。大学に復学した後、争議にかかわった先輩や友人たちと、何かできることはないか?と考え、清掃労働者の存在に気づきました。

 延世大学の清掃労働者は、IMF危機の時代に非正規化されていました。週40時間労働で月額11~12万円の最低賃金すら守られておらず、7~8万円しか支払われていないうえに、始業前1時間の無償労働も課されていました。

 私たちは、労働者との交流から始めました。清掃労働者は、透明な存在です。男子トイレに女性労働者が入ってきても、眼に入らないのです。待機場所は、校舎の地下深くにあり、暗く狭い部屋に8人くらいが座っていました。こうした清掃労働者が延世大学では4~500名働いていました。

 彼(女)らは、朝5時に出勤し、軍隊式の点呼から始まります。清掃をしながら古紙を集めて業者に売って、その代金で米を買って、皆で朝食と昼食にするという生活です。

 ところが、これを知った大学当局は、古紙販売代金を大学に納めさせる措置を採ったのです。労働者にとっては、大きなダメージでした。これ以降、労働者の不満が蓄積されていき、私たちは、学生からカンパを募って米を買い、労働者に届ける活動を始めました。

26名で組合結成約150名に

 その頃から私たちは、労働組合結成をめざしましたが、労働者たちは50歳以上で保守的な考えの人が多かったので、間接的アプローチから始めました。お米を配りながら、最低賃金の話や労働者を保護する法律や制度の話を語りかけていきました。清掃労働者の違法な労働実態を列挙したビラをつくり、連絡先を書いて相談活動を行ううち、徐々に連帯感が生まれてきました。

 こうした活動が大学当局に知られ、ある日労働者たちから「君たちと付き合うとクビになる」「アカだったんだな」と言われ、会うことが困難になりました。

 そんな日が続くなか、教会の清掃を無償で強制していた外注先の現場責任者が、それを拒否した労働者を配置転換する事件が起こり、労働者が相談にきました。これはチャンスと学内の活動家に応援要請をすると、100名集まり、清掃を管轄する部署がある本館に行き、学生会として団体交渉を申し入れました。その場に現場責任者を呼んで説明させ、謝罪を勝ち取り、当該労働者も元の職場に戻すとの確約も得ました。

 この闘いは、すぐに清掃労働者の間で噂が広がり、労組結成への機運が高まりました。スパイ役もいたので、大学外で会合を重ねて、26名で組合結成を確認。「組合加入届」を配って組織化を進めた結果、2008年1月に約150名で労働組合発足を宣言しました。

労働組合の活動で人間が持つ可能性を開花させたい

 ところが大学当局は、労組結成を嫌って20年来の実績がある清掃委託先との契約を突然解除。私たち学生と労働組合は、総長室がある大学本館を150名で占拠して雇用の継続を求めました。

 3日間の占拠の後、(1)清掃業者とは契約を打ち切るが、(2)労働者は新たな業者へ移籍して雇用は守る、との合意を大学当局と学生会との間で結びました。

 さらに「最低賃金を満たしていなかった未払い賃金について、3年前に遡って支払え」という要求を掲げて、再度本館を占拠しました。150名×3年分の要求総額は、3億5000万ウォン(3500万円)にのぼりました。これがニュースにも取り上げられ、労働省に直訴。大学は、未払い賃金分をいったん労働省に納めたうえで労働者に支払うことで同意しました。大学当局は、あくまで清掃労働者との直接雇用関係を認めたくなかったからです。他にも、週40時間労働(週休2日制)、無償労働の禁止などを要求し、勝利することができました。

 こうした闘いは、他大学の清掃労働者の間で噂として広まり、各大学で労組が結成されました。ところが、弘益大で労組結成を通知した翌日に、130名の労働者を全員解雇するという事件が起こりました。このため私たちは、弘益大学本部を占拠。大きく報道され、SNSでも支持とカンパを呼びかけ、多数の芸能人も賛同を表明するなど大きな闘争となり、勝利しました。 以降、全国各地の清掃労働者から労組結成を求める相談が寄せられるようになりました。22大学、3千名を超える労働者が加盟する支部となりました。

 組合運動の基盤ができ、組合費を集めることができ、企業からも組合支援費を徴収して安定的に運営できるようになったので、組合費を使って識字教室やコンピュータ教室を開講することにしました。学内で講師を募集したところ、学生からの問い合わせが相次ぎ、支持が続いています。

 非正規職の賃金は正規職の6割程度で、福利厚生なども圧倒的に不利な立場に置かれています。生活を質の面でも豊かにし、人間が本来持っているさまざまな可能性を開花させることをめざしたいと思っています。

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