【イスラエル秘密諜報機関】難民キャンプで横行するパレスチナ人活動家の暗殺 イスラエル在住 ガリコ美恵子

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「犯人追及運動を止めなければお前も同じ目に」―公然と脅迫

 10月31日、イハーブ(26)がショーファット難民キャンプで、覆面男性に撃たれ、亡くなった。 東エルサレムのショーファット難民キャンプで生まれ育ったイハーブは、働きながら、占領に反対する市民運動を展開していた。彼は、暗殺された市民運動のリーダー、バハの弟である。

 バハは、難民キャンプの環境改善を求め、イスラエル人左派に連帯を呼び掛けて、市民運動を展開する平和活動家として有名だった。英語、ヘブライ語が流暢だったため、イスラエル人や外国人活動家との窓口を果たしていた。彼は平和活動家を難民キャンプに案内し、イスラエル人と会話する会や環境改善要求デモを主催していた。エルサレム唯一の難民キャンプである。人口は8万人。敷地は0・22キロメートル。2004年、隣町アナッタ町など、キャンプ周囲の土地を抱え込む形で分離壁が建設された。出入口は2か所のみ。エルサレムへの出入り口には検問所があり、いつも長蛇の列ができている。

 住民は市民税を義務付けられているにもかかわらず、エルサレム市のゴミ収集車は来ない。舗装されていない道路がたくさんある。子どもの遊び場はない。電線はむき出しのまま。下水は路上に流れっぱなしだ。こういった環境悪を取り上げて、イスラエル人左派と共同デモを繰り返し、市役所に改善を要求したバハの運動は成果をあげ、3年ほど前から少しずつ道路が舗装されるようになった。そんなある日、バイクに乗った覆面男性が、近所を歩いていたバハを射殺した。バハは幼い子ども2人と妻を残して逝った。28歳だった。妻は妊娠中だった。

 バハが亡くなった半年後に男児が生まれ、バハのように正義のために闘う子どもになるようにと、バハと名付けられた。

 家族は録画テープを警察に提出し、犯人捜索を警察に要求した。しかし謎のうちに犯人捜しが打ち切られた。

 バハの弟ソハイブ(16)は、家計を助けるため高校入学をあきらめ、朝から晩まで働いていた。2017年1月7日、仕事を終えて帰宅中、イスラエル警察に逮捕され、服役中である。起訴理由は「投石」だが、本人は否定しており、投石現場に居合わせた証拠もない。

 バハの兄アラ(30)はバハ暗殺犯人捜しを続けるようイスラエル警察に要求、と同時に弟ソハイブの無実を訴え、イスラエル人や外国人の平和活動家に連帯を呼び掛けた。これに応えたイスラエル人左派40人が、昨年春、難民キャンプ検問所前でプラカードを掲げた。

 その半年後、アラは番号無表記の電話を受信した。話し手はイスラエル秘密諜報機関(シャバク)・ピスガット・ゼエブ入植地担当のオデッドと名乗り、こう言った。「バハ殺害の犯人追及運動を止めなければ、お前を同じような目に遭わせる」。

 脅迫電話の数日後、2017年10月10日、ソハイブの裁判がエルサレム地方裁判所で行われた。有罪判決が出された。アラは最高裁まで闘うつもりだっただろう。彼のまっすぐな性格を知る私は、そう確信している。

 その日、アラの死体が、近くの入植地を運転中だったバスの運転手により、発見された。アラは30歳で、妻と、11歳の女児、9歳と4歳の男児を残してこの世を去った。

「真実を追求することをやめないでこの事実を日本人に伝えて」と母が

 死因不明の死体は、テル・アビブのアブカビル刑務所死体解剖検査室に送られたが、解剖結果のファイルは白紙のまま、死体が家族に返却された。イスラム教徒は、埋葬する前に死体を洗う。洗ったのは、アラの親友だった。「銃で撃たれた形跡も殴られた形跡もなかった。ただ、首に注射針のような痕があった。薬物をうたれて、心臓停止したんじゃないかな」―アラの親友がそう教えてくれた。

 パレスチナとイスラエルの電話通信は、すべて録音されている。警察は受信内容や発信場所を調べることができる。

 しかも、エルサレム市はどこにでも防犯カメラが設置されている。アラを襲った人物を防犯カメラで確認することも、容易にできたはずだ。しかし、イスラエル当局は捜索を早々と中止した。

 ベドウィン集落の撤去反対運動に連帯していた私の仲間数人=パレスチナ人とイスラエル人も、先月同じような脅迫電話を受けた。彼らは即、メディア数社に公開したので、まだ生きている。

 記事が即日発行され、ネットでも拡散されたためだろう。

 ノーファル家の5人兄弟のうち、バハ、アラ、イハーブ、と3人が暗殺され、1人は服役中だ。イハーブ追悼のため、ノーファル家を訪問した。2年半前バハの葬式に出席した私の顔を、彼の母は覚えていた。皆が居間に集まってきた。父はラマーラ近郊アル・アマリ難民キャンプの出身。母はエルサレム旧市街の出身だ。 母が言った。「私たちは犯人捜査を求めます。黙っているわけにはいきません。あなたは少しでも多くの日本人にこのことを知らせてください。パレスチナのメディアが1度取材にきたけれど、海外メディアはあなたが初めてです。ヘブライ語の新聞でニュースが流れましたが、イスラエル・メディアに知り合いがいるなら、ここにインタビューに来るように頼んでください。あなたが市民運動をしているなら、犯人が見つかるまで捜索を続けるよう、要求デモをしてください。真実を追求することをやめないでください。正義のために闘ってください」。

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