文化欄【連載:みんな居場所を求めてる(6)】京都「くらしごと五右衛門」 

古民家をシェアする人たち

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子どもも大人も成長できる場

 「家族の成長や日常生活の延長線上に五右衛門がある。どのような場にしていこうとかはあまり決めずに生活の中で面白いと思えることを実現できる軽さをもっていたい」―今後の展開を、との問いに、「くらしごと」広報のぴゅーさんは話してくれた。

 メンバーには子持ちの家族も多く、子どもの成長だけでなく、そこには大人の成長も含まれている。五右衛門という場に対するそのような考え方は、そのまま地域のなかでどのように根ざしていくかという問いにも直接的につながっているように思えた。
 京都は左京区上高野にある「くらしごと 五右衛門」には、古民家をシェアして活動する人たちがいる。染色、ギターリスト、大工、自主保育、ワークショップをする人、田畑で作業をする人など、活動はいろいろ。ワークショップも、身体的なワークショップや工芸品、料理教室などさまざまである。

 土曜は週替りでメンバーが五右衛門カフェとしてオープンしており、隔月第3土曜日に開催される五右衛門マルシェも好評だ。

 ミュージシャンも多く集まる五右衛門マルシェなどでも、周辺の子どもたちを巻き込んで地域民謡のようなものを一緒に作るようなワークショップの計画をしている、と語ってくれた。

 隔週日曜日に開催している里山の保全活動では、薪の採取や遊び場作りなどを行っている。Handworks Blanketさんの染物は、五右衛門の里山の草木を収集し、集めた薪で火をかけて煮出し染められている。

 元をたどると「くらしごと 五右衛門」は、地主さんの里山整備のワークショップに集まったメンバーから始まっている。薪を切って火にする。そもそもが里山の恵みとつながる暮らしが生き残っている家だったという。その暮らし方を受け継いで、ここにある自然の恵みを活かした生活をしたいというのは、当初からメンバー同士で話し合ってきたこと。

 かまども、ものは残っているけれど、実際使っているところはほとんどない。五右衛門の活動には地域での昔ながらの営みを引き継ぐ、あるいは復活させるということがあるようだ。

 上高野水車小屋復活プロジェクトというものも進行中である。八瀬辺りからの高野川周辺には水車が昔はたくさんあって、香料を練るのに使われていた。中も拝見させてもらったが、改修したばかりで新品同様、すぐにも使えそうな状態であった。使用許可をもらうため地元の方との話し合いを重ねているそうだ。古き良きものを大切にしたい想いは、建物だけでなく、地域の祭りへの参加や、かまどの火入れ式、節分行事などの祭事も大切にしている。

 蔵の中には「こども文庫」という図書館の分館のようなものもある。また、寺子屋のような場もしてみたいと展望を語ってくれた。それは学校だけでは学べない、体験できないような自然と共にある生活の中から見つけ出す学び。

 例えば大きなかまど。メンバーで食事をするときは、必ずそのかまどでご飯を炊く。五右衛門にとって火があることがとても重要だ、とメンバーのらぁさんは話す。

 「わたしたちにとって火のある暮らしとは、生活からつながる根源的な自然の摂理と共に生きることなのかなと思います。薪を置くにしても火を焚くにしても、空気の流れと木の中の水分、時々の天候などを感じ、人間の力には及ばない自然の摂理を知り、生かされることなのかなと思います」

 四季折々に入れ替える建具は、夏は格子戸、冬は木戸、襖や障子をどこに入れるかで、暖をとったり、風が通るように変化させる。その風情の移り変わりも、木の文化の重要な味わいである。大人も子どももその空気感の変化に声があがるのだそうだ。

 子どもも大人も成長できる場。小さく開催されている「当事者研究」の試みは、対話の中から自分を客観的に見て、自らの考え方を更新する研究だ。

自然とつながる生き方に魅力

 家族という風通しの悪くなりがちなものも、五右衛門に来れば風通しがよくなる。

 「それぞれの生活があっても、五右衛門は欠かせない存在です」―らぁさんはそのように語ってくれた。

 他にも最近、使わなくなった井戸を復旧させ比叡山からの水を使えるようにしているという。田んぼや畑もあり、毎年稲作も行っている。種籾から発芽させ、草引き、水管理、収穫までほとんど手作業でしている。田植え、稲刈りは、参加者を呼びかけてみんなでしている。

 餅つきや味噌づくりは冬の恒例行事で、春先まで何回も行われる。

 「みんなの考え方やしたいことなどはバラバラでもいい」と語るぴゅーさん。その言葉は、メンバーが農や自然を中心にしているからこその信頼の表れなのではないかと感じた。それは同時に、自然のおおらかさへの信頼でもある。

 農の大切さ、自然とつながる生き方に魅力を感じたひとたちが集まっている五右衛門には、大人も子どもも愉しみながら生きる力になるような、他では体験できない仕事や感覚の育みが山のようにある。
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                                                                                                                                                                                 アクセス 京都市左京区上高野植ノ町5 電話090ー9166ー1980

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