生徒向け復興庁パンフのウソ

放射線の健康被害を過小評価 日本版チェルノブイリ法の制定を 市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺 悦司

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偽りだらけの「放射線のホント」

 政府は、放射線被曝についての子ども・生徒向けのパンフレットを公表している。復興庁パンフ『放射線のホント』だ。マンガも交えて主張されているのは次の10項目。全て偽りである。

1.放射線はふだんから身の回りにあり、ゼロにはできない――だからといって、追加して被曝しても「安全」という結論にはならない。

2.放射線はうつらない――放射性物質、放射性微粒子は、見えない細菌やウイルスと同じように、呼吸や皮膚から、食べた食品から「うつってくる」。

3.放射線の影響は遺伝しない――政府が依拠している国連科学委員会の報告や国際放射線防護委員会の勧告でさえ、遺伝的影響が「ある・ある可能性が高い」ことを認めている。

4.放射線の健康への影響は、ある・なしでなく量が問題――問題のすり替え。被曝すれば影響や被害は「ある」。

5.100~200mSvの被曝での発がんリスクの増加は、野菜不足や塩分の取り過ぎと同じくらい――この比較にはトリックがある。比較するリスクの期間が5倍も違うのである。元となった国立がん研究センターの表では、野菜不足や塩分の取り過ぎは「10年間」継続した場合のリスクと明記されている。放射線は1回の被曝量による生涯期間「50年間」のがん発生・致死リスクである。
 野菜不足のリスクを放射線被曝リスクと同じ50年に換算した場合、リスクは最大で1Svとなり「致死量」に達する。数ヵ月以内の10%未満致死量の下限値だ。

6.福島原発事故の放射線で健康に影響が出たとは証明されていない――健康影響の「証明」は数十年間・数世代観察したデータに基づいてのみ可能。

7.国連科学委員会の報告書では、東電の福島原発事故で亡くなったり、重い症状となったり、髪の毛が抜けたりした人はおらず、今後のがんの増加も予想されず、また多数の甲状腺がんの発生を福島では考える必要はない、と評価されている――吉田昌郎所長(当時)はガンにより「亡くなった」。「脱毛」は多くの子どもに現れた。福島における子どもの「甲状腺がん」の多発は、疫学的に証明されている。

8.福島原発事故で空気中に放出された放射性物質の量は、チェルノブイリの7分の1。避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、体中に取り込まれた量も少なかった――放出量は国際基準によれば同等。7分の1から、被害が「ゼロ」は導けない。

9.福島県内の主要都市の放射線量は事故後7年で大幅に低下し、国内外の主要都市と変わらないくらいになった――福島県各都市の線量は、いまだに高い。低下したとしても、過去に被曝した人体影響は消えない。

10.日本は世界で最も厳しい汚染レベルの基準を設定して食品や飲料水の検査をしており、基準を超えた場合は売り場に出ないようになっている――日本の基準は高い。ウクライナの5倍だ。

汚染地への帰還より避難政策の推進を

 復興庁パンフは、(1)大規模再稼働による「次の」原発重大事故に向けての準備であり、(2)放射能で汚染された除染残土や廃炉廃棄物の再利用を全国で進めるための宣伝であり、(3)アメリカと一体となった「小規模核兵器」による核戦争に向けての準備だからだ。

 原子力規制委員会の更田豊志委員長は、一般住民の年間1mSv基準を、現行の空間線量に換算して毎時0・23μSvから毎時1μSvに解釈改訂し、4倍に引き上げようとしている。
 年間被曝量で、8・32mSvである。政府・放医研のリスク係数によれば、5万~15万人の過剰な死者が、1年間の被曝に対して生じる。

 これはガンだけであるが、住民の見えざる大量殺戮、全般的健康状態の悪化、人口の再生産の破壊を示唆している。
 国連科学委員会は、米ロ中英仏など核大国グループの下請組織であり、核実験の被害を過小評価するために設立された、核開発・原発推進機関である。

 チェルノブイリ事故の際も、「被害は全くない」とし、当時のソ連政府に、住民防護対策を取らないよう促し、被曝被害を拡大させた。社会主義の崩壊を健康・人口面から促進した。同じ工作を、競争相手の日本に行っている。チェルノブイリ事故の当事国は、住民運動の圧力の下、住民を防護するための「チェルノブイリ法」を制定した。事故から5年後だ。

 日本政府は、国連科学委員会に追従し、住民の汚染地への帰還や、全国への被曝被害の拡散を推進している。避難政策とチェルノブイリ法日本版の制定以外に生き残る道はない。

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