【時評短評 私の直言】東京五輪再開発と投棄の闇

福島原発からあふれ続ける放射性物質  神戸大学 原口剛

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 2020年、東京五輪。その開発地を歩くと、「コンパクト」などとよく言えたものだと、つくづく思う。五輪開催の目的には、あきらかに不動産開発が組み込まれている。「東京大改造」という言葉が表わすように、それは、前代未聞の巨大な開発プロジェクトにほかならない。開発プロジェクトの中心にあるのが、会場予定地とされる湾岸の埋め立て地である。

 数カ月前、オリンピックが開催される東京の湾岸エリアを車でみてまわった。築地市場から勝鬨橋を渡って人工島に入ると、すぐさま巨大な高さのタワーマンションが目に入る。ホームページによると、このマンションは2011年3月に竣工され、地上52階建て、総戸数752戸を擁する。高層階ともなれば、月々の2LDKの家賃は30万円を超えるそうだ。

 このような規模のタワーマンションが、オリンピックを経たのち、この人工島に林立するようになるのだという。たとえば、有明アリーナや体操競技場が建設中の有明北地区では、居住人口3万8000人を擁するニュータウンをつくり出そうとしている。その地をじっさいに訪れてみた。体操競技場の予定地は、まだ更地だ。2019年までに、ここに豪勢な体操競技場が建つ? おとぎ話かと疑いたくもなる。そこに隣接する土地は、やはりタワーマンションが建設工事の最中にある。マンション広告によれば、その販売予定価格は2LDKで4900万円~9200万円。転売されたとなれば、値段はさらに跳ね上がっていくのだろう。

 この人工島でなにが進行しているのか。わけがわからないことだらけだ。30万円もの家賃を支払えるほど稼いでいる人間がいるというのも驚愕だが、2年後にはそんな人間がごっそり集団で住むコミュニティが仕上がるというのだから、ますます信じられない話だ。それとも、居住用に売買されているのではなく、投機でひと儲けしようとカネが流れ込んでいるだけなのかもしれない。そうだとしても、この巨大な開発地を巨額のマネーが飛び交っているのは確かだ。

何も考えようとしない「新しい人間」作り

 ところがその地は、汚染地である。選手村建設地横の中央清掃工場の煙突や、有明清掃工場の煙突が、いまもその事実を赤裸々に告げている。かつてガス製造工場であった新豊洲市場からは、ベンゼンやヒ素やシアンが検出された。原発から溢れ出つづける放射性物質は、いまも人工島のまわりを取り巻いている。そのような土地のうえに、タワーマンションがつぎつぎと建設されようとしているのだ。

 突飛な発想かもしれないが、もしやこれは、新しい人間をつくりだそうとする実験なのではないか。どれほど生活空間が汚染されていようと、なんら気にすることなく、明るい家族を演じられるような人間。どこかで誰かの人権が踏みにじられていようと、うしろめたさすら感じることなく、向こう側の世界のこととして無視することのできる人間。なにしろここは、切り離された人工島である。人目がないのをいいことに、不動産資本は、やりたい放題の開発を繰り広げている。国家もまた、やりたい放題の実験を行っているのではないか?

 「オリンピックアクアティクスセンター」の建設地をおとずれた。巨大な建設地を囲う白壁の表面には、東京五輪のエンブレムを添えつつ、小学生の描いたポスターが大きく印刷されている。江東区の小学校の教室で描かれたのだろうそのポスターには、「日本のよさを伝えよう」という文字が、こどもの手で描かれていた。おそろしいことだ。

 「アンダーコントロール」というウソのうえに、新たな都市が建設されようとしている。権力のなすがままに、新しい人間が生み出されようとしている。この事態を、黙って見過ごすわけにはいかない。

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